チャーンは何を物語っているか? - Baremetrics Japan

Tomotaka Endo 2022 4 25

SaaSの世界では、チャーンはどこにでもあります。あまりに、この指標はよく知られており、フォローすべき必須の指標であります。もしかしたら、何よりも重要な指標かもしれません。

しかし、誰もがチャーンという指標を支持しているわけではありません。私たちは、このテーマについてcatch.jsに書かれた記事にインスパイアされました。というのは、彼らは、シミュレーション実験を通じて、ある状況下では、チャーンが、あるべき姿とは正反対の姿を示すことを実証し、チャーンは無駄だと主張しているのです。

この記事でも同様に、チャーンについて検討していきます。今回は、価格最適化シリーズの第4弾として、チャーンメトリックをシミュレーションで検証し、どのような場合に誤解を招く結果になるかを説明します。

まず始めに、上の記事にあるような状況を想定してみましょう。この記事では、サブスクリプションがどのくらい続くかをモデル化するためにロマックス分布を使用します。

数ヶ月という短い期間でサービスを試す顧客はたくさんいます。また、もっと長い期間利用する顧客もいます。彼らのLomaxモデルに似たパラメータを持つワイブル分布で、サブスクリプションをシミュレートしてみます。

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そして、どういった場合にチャーンは私たちを違う方向へ導いてしまうのでしょうか?

まずはチャーンについて、もう一度振り返ってみましょう。各期間における顧客チャーンの計算式です。

チャーン= 失われた顧客/初期の顧客

上の式は、各期間において失われた顧客の割合を示しています。顧客を多く失えば、その割合は増加します。顧客を多く獲得した場合、その割合は減少し、ゼロになるのが理想です。チャーン率が低いと良く、高いとよくないです。

簡単な式ではありますが、チャーンは私たちが期待するようには動いてくれません。

シナリオ:何も変わらないとどうなるか?

まず、「変化なし」というシナリオから考えてみましょう。改善も悪化もないビジネスです。サインアップも変わりません。サブスクリプションのライフタイムは一定です。収益も安定しています。

これは、後で何かが変化したときに比較するための基準値となります。では、停滞したビジネスにおいて、チャーンはどのように働くのでしょうか。

まず、月平均30件の申し込みがあるポアソン分布でシミュレーションをしてみました。また、平均加入期間が約2ヶ月となるようにパラメータを設定し、ワイブル分布を用いて加入期間をシミュレートしています。

このシミュレーションで、時間の経過とともに顧客層がどうなっていくかを見てみましょう。

flat active subscribers

上の図は、現在取引のある顧客数の経年変化を示したものです。「変化なし」と言ったにもかかわらず、最初に顧客数が増えていることに注目してください。

それは、顧客数ゼロの状態からスタートしたからです。約12ヵ月後、登録者数と退会者数が均衡するプラトーに到達します。

加入者数は変動していますが、赤い線で示された一定の数字に近い状態で推移しています。この赤い線の周りを永遠に回り続けるでしょう。これは収益にも当てはまり、ほぼ同じ収益がずっと続くと考えるべきでしょう。純粋に停滞したビジネスであり、改善も悪化もありません。

では、このシナリオで顧客離れがどうなるかを見てみましょう。停滞したチャーンはどのようなものでしょうか?

flat churn

顧客数と同じように、登録者数と退会者数が均衡した後は、チャーン率は一定に保たれます。顧客数が増加すると、契約者数に対するドロップアウトの割合が減少するため、予想通りチャーン率は低下します。

上の図は、「何も起きていない 」時のチャーンの様子です。停滞したビジネスでは、自然変動のため、月ごとに浮き沈みがあります。

このようなばらつきはあるものの、平均チャーン率はいつまでも一定です。この変動は、チャーン率が月ごとに変化しても動揺しないようにするための注意喚起です。重要なのは、このグラフの赤い線で示されるトレンドです。この場合、トレンドは横ばいです。

それでは、もうちょっと複雑にしちゃいましょう!

シナリオ:サインアップが止まったらどうする?

このシミュレーションの途中でサインアップを遮断したらどうなるでしょうか。新規加入者を獲得できなくなれば、チャーン率は上がると予想されます。チャーンはよくないことですし、サインアップ数がなくなるのもよくないですから、この2つは互いに対応してほしいものです。顧客維持に失敗した場合、チャーン率は上昇すると思われます。そうでしょうか?

ここで、顧客人口がどうなっているのかをご紹介します:

zero customer subscriber plot

シミュレーションしたビジネスが成長し、先ほどの例と同じようにプラトーに到達しました。その後、登録者数が途絶えます(赤線)。

加入者数の減り方に注目してください。最初は急激に減少し、時間が経つにつれて平坦になります。この効果は、より忠実な顧客の割合が増え、解約する可能性が低くなることからきています。最後に退会する顧客は、退会する可能性が最も低い顧客なのです

さて、このような状況で、チャーンは警鐘を鳴らすのでしょうか?チャーンを見てみましょう。

zero customer churn

チャーン率が下がり、ビジネスが破綻しているという驚くべき事態が発生しています。これは予想とは正反対です。また、購読のモデルとして別の分布を使用したにもかかわらず、catch.jsの記事でも同じ結果が見られました。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?それは、サブスクリプションの長さがどのように配分されているかに起因しています。顧客は皆同じではありません。例えばある顧客は、我々のサービスを1ヶ月間試してみて、気に入らないと判断し、購読をすぐに停止します。

一方で、製品に満足して長く利用してくれる人もいます。ここで、説明のために先ほどのシミュレーションにおける契約期間のヒストグラムを示します。

histogram 1

上記は、顧客の様々な契約期間の頻度を示すヒストグラムです。 左側が巨大なことに注目してください。これは、ほとんどの顧客が短期購読しかしていないということです。このような顧客は、いつでも購読を中止する可能性が高いです。

しかし、その一方で、長期購読してくださる顧客も少なからずいます。そういう長く購読している人は、退会する可能性が低く、長く利用してくれます。

サインアップを遮断すると、大抵の場合、長く利用している人が残ります。そして、彼らは我々のビジネスから離れる可能性が低いので、チャーンの指標を上げる可能性も低くなります。そのため、チャーン率は下がっているように見えますが、一方で会社は破綻しているのです。これは、私たちが望んでいることとは真逆です。

これは憂慮すべきことかもしれませんが、このシナリオはBaremetrics 顧客全員に当てはまるとは限りません。このシナリオを、固定客を持つような別の種類のビジネスで試してみたらどうでしょうか?

チャーンはどんな状況でも悪いことなのか?

上の購読期間のヒストグラムは、ご自身のビジネスを反映していないことにお気づきでしょうか。これは極端な分布で、顧客の大部分が短期間しか購読していません。あなたのビジネスで短期間の顧客がもっと少ないとしたら、どうなるでしょうか?

あなたのビジネスが、営業チームによる集客だとします。顧客は通常、1ヶ月と言わず、もっと長く契約してくれます。そのような場合、サインアップを停止すると、チャーンはどのようになるのでしょうか?

では、実際のBaremetricsの顧客を元にシミュレーションしてみましょう。このビジネスでは、顧客は平均すると 2 ヶ月ではなく 5 年間購読しています。購読の長さがどのように分布しているかは、以下のとおりです:

histogram 2

このシナリオでは、より忠実な購読者を獲得できます。 購読者は通常、前出のシナリオのように1ヶ月ではなく、3年間購読します。

では、購読を停止したシミュレーションを、新しい購読の分布でやり直してみましょう。有効な購読者のグラフはこちらです。

zero customer active subscribers plot 2

すでに全然違います。顧客は順調に増加していきます。そして、サインアップがなくなると安定期という状態がないうちに、下降線をたどります。

ではチャーンを見て見ましょう:

zero customer churn plot 2

 顧客維持がうまくいっていないときに、チャーンが増えています。なぜでしょうか?それは、すぐに解約する顧客が少なく、長く滞在してくれる極端な顧客が少ないからです。

ここから、チャーン率という指標について、気になることが見えてきます。チャーン率指標の信頼性は、顧客の種類に依存するということです。

こういった事例は、おそらく読者の皆さんが、チャーン率の指標の意味をもっと疑うきっかけになるでしょう。

まとめ:より良い測定基準へ向けて

チャーン率という指標の奇妙な動きを考えると、顧客維持率を理解するためのより良い指標を探す方が理にかなっていると思います。チャーンに焦点を当てるということは、サインアップ、ドロップアウト、購読者の種類など、一つにまとめているプロセスが多すぎる可能性があります。これらのプロセスにそれぞれ変化があれば、チャーンの動きも変わりますが、この指標はこれらのプロセスを束ねたものであるため、何が問題なのかがわからないのです。

もしかしたら、これらのプロセスは別々に焦点を当てた方がいいかもしれません。サインアップ、ドロップアウト、サブスクリプションの長さを別々に測定することは十分に可能です。

Baremetricsを利用することで、顧客のチャーン率や維持率を含め、多くんもビジネス指標を簡単にトラッキングすることが可能とりなります。是非、無料トライアルにサインアップして、お試しください。

Tomotaka Endo

Tomo Endo is a dynamic professional with a rare blend of achievements in technology, community leadership, and sports. As the Co-Founder of Nihonium.io since August 2023 and Community Lead at Xenon Partners since September 2019, Tomo has been pivotal in driving innovation and fostering community engagement within the tech industry in Tokyo, Japan. His role in facilitating growth and providing actionable insights at Baremetrics, coupled with his contribution to MetricFire's technical monitoring community, underscores his proficiency in leveraging technology to nurture professional communities. Beyond his tech-centric endeavors, Tomo has excelled as a professional athlete in squash, achieving the no.1 ranking in Japan and a global ranking of 79th by August 2020.