リモートワーク: SaaS事業で社員定着率向上のヒント - Baremetrics Japan

Tomotaka Endo 2022 6 6

本記事では、2022年1月6日に行われたジャスティン・クック氏との対談からの重要なインサイトをお伝えします。対談の全文はこちらでお聞きください。

2022年、つまり世界の大半の国では、リモートワーク時代の3年目の到来です。

SaaS業界では、多くがもう何年も、オフィスに足を踏み入れるのも、スーツを着るのも(Zoomミーティングでは上はきちんと下はジャージの人もいたりいなかったり?)、チームと直接話をすることもしていないかもしれません。

こういった距離感によって社員の心が離れかねないことから、企業にとって社員のモチベーション維持のための施策は、かつてないくらい重要なものとなっています。

創業者として、チームを幸せにすることは、単なる快適な職場環境の維持ではありません。従業員の定着率とチームの士気の高さは、生産性を支え、ビジネスの成長を促し、さらには顧客体験を向上させます。GoogleやAppleのような多くのハイテク企業は、まさにこの理由から従業員満足度に多額の投資を行っているのです。

しかし、スタッフのほとんどが同じ都市、ましてや同じ大陸やタイムゾーンにいるわけでもない場合、どのようにしてチームの結束力を高めることができるでしょうか。

ヒント1:チームの関心に応じた全体的な役割分担

できるマネージャーは、社員一人ひとりのさまざまなスキルや関心事を尊重し、それをチームの中でどのように活かすべきかをわかっています。社員を単に会社の道具としてではなく、それぞれのキャリア形成の目標を持った人間として扱うことは、チームの信頼と尊敬、そして忠誠心を得るのに大きな役割を果たします。

まずは採用の時から、役割を明確化しておくことが重要となるでしょう。

1. チームの一員になる

あるポジションを採用しないといけない時、そのポジションに最も関連の高い経験が履歴書に書かれている人を採用したくなるかもしれませんが、小規模な会社では、既存のチームとうまく機能し、かつ新しいスキルや視点をもたらしてくれるスタッフを採用することが大事です。

リモートワークでは、コミュニケーションの摩擦がなくなるわけではなく、むしろ摩擦が増幅されることもあります。こういった理由から、チームワークのスキルはフルリモートのワークスペースに変換されるため、現場での職務経験のある人の採用の方がいいでしょう。

2. 仕事を任せる

創業者たるもの、チームに対する知識は、自分自身の強さや限界など、自己に対する強い意識も含まれてなければいけません。

信頼できるメンバーに仕事を任せるのは、自分自身と会社の長期的な健全性のためは不可欠です。タスクの共有に関して、ジャスティンはこう言います。

プロジェクトを練り上げ、テストし、失敗するかどうか、定着するかどうかを見るのは楽しいと思うのですが、それを長期的に改善し、手を加え、より良くしていくのは...私には楽しくないんです

私はどちらかというと、物事のクリエイティブな面を重視するので、自分にとって楽しいプロジェクトに取り組むのが好きなんです。バカげているように聞こえるかもしれませんが、それが私のベストなやり方なので、微調整とか、20%の改良を加えたりとかは、私自身はあまり興味がないのですが、私のビジネスパートナーはその分野にとても強いです。」

ヒント2:短期的なインセンティブよりも、構造的なサポート提供

従業員の仕事への満足度を上げるには、何を与えれられるでしょうか?

もっとお金あげるですか?確かにボーナスや歩合給は短期的には士気を高める効果がありますが、長期的に見ると、社員が長期的な成功のために実際に必要なのは、良いサポート体制なのです。

つまり統率、サポート、一緒に働けるチームは提供し、与える歩合はずっと小さくても良いということです。 これは、ただたくさんお金を配って期待するよりも、ビジネスとして機能しやすくする、より良いモデルです。人を引き寄せてビジネスにつなげるということを、(当初の)私たちはそれが分かっていませんでした」。

従業員に市場価格よりも高い報酬を支払うことには、さらに2つの欠点があります。まず、このような戦略は多くのSaaS企業にとって持続可能なものではなく、むしろリソースを会社に再投資した方が、成長のスピードアップの可能性がでてきます。次に、個人のボーナスが高額になると、チーム内に亀裂が生じ、四半期ごとの目標達成のために目先の利益に囚われた営業戦略をとることが促される可能性があります。

従業員に対するベストなサポートは現金ではなく、従業員が優れたパフォーマンスを発揮するのに必要なリソース、特にマンパワー、予算、コミュニケーション・チャネルの確保です。

ヒント3:チーム売上ボーナスでチームワークの促進

多くのSaaS企業では、セールスチームがボーナスのために競いあっています。この「健全な競争」戦略は売上を伸ばすことができますが、その代償として協力的な職場環境が損なわれることがよくあります。

しかし、ボーナスがとにかく悪いというわけではなく、ジャスティンは、総売上高に基づいたチーム全体のコミッションの提供が、最も良い結果を生むことを発見しています。ジャスティンは、

「私たちは、一緒に仕事ができて協力し合えるチームを作ることにしました。私たちと一緒に上場しようという人が出てきて、チーム全体でそれに取り組むことになるでしょう。例えば営業マンが一人しかいないにも関わらず、その営業マンが1週間体調を崩すこともありあます。そんな時は喜んで誰かが彼の代わりをしてくれるでしょう。その理由は、個々の取引に対してコミッションが支払われるわけではなく、会社全体へのボーナスだったからです。それで、個人で頑張るチームではなく、もっと協力的なセールスチームになったのです」。

ヒント4:インセンティブを与えることによる長期的な影響に注意

インセンティブは優先順位を生み出します。となると、ある行動にインセンティブが与えられると、必然的に他のタスクの優先順位が下がります。

営業賞与を中心としたインセンティブ制度の多くは、スタッフがほぼ短期的なこと、つまり、今月や今期の取引を成立させることだけに集中することになります。 そういった定期的な売上は、成長のために重要ですが 、将来のためのインフラ整備を犠牲にするようなことがあれば、長い目で見るとビジネスそのものがダメになりかねません。

では、社員がより遠い未来に時間を投資するためのインセンティブはどのように作ればいいのでしょうか。

その解決策の一つが、事業の長期的な成功に対する部分的な所有権の提供です。

ヒント5:従業員への株式提供

経営の鍵となる従業員に株式を提供すべきか?これは、SaaSスペースで広く議論されている質問です。

では、そうすることのメリットを見てみましょう

株式の保有は、従業員にとって、会社の利益のために行動する極めて大きな動機となります。これには、インフラの長期的な改善、完全に回収するまでに数年かかる成長戦略、経費の最小化などへの取り組みが含まれます。

ジャスティンは経験上、次のように語っています:

「もし、従業員が長期的に何らかの株式を保有すれば、彼らはあなたのように2年、3年、4年、5年後を見ようとするでしょうから、そこで創業者とより密接な関係を築けるようになり、それに基づいて何らかの補償を受けることになるのです [...]. また、長期的に会社の株式の一部を保有しているので、短期的な利益のために完全に売り払うことはないでしょう」。

もちろん、株式を従業員定着のためのツールとして利用することには、所有権の希薄化、財務上のプライバシーの喪失、いつか自分の分け前を見たいと思う従業員からの売却へのプレッシャーの増大などの欠点もあります。 

ヒント6:戦略会議の定期開催

従業員の定着率を高め、積極的な関わりを維持するもう一つの方法は、会社の目標についてオープンな対話を行うことです。

小規模企業であれば、四半期ごとに全部門が一堂に会し、それぞれの開発について話し合う戦略会議を開くことを検討しましょう。会社の重要な決定事項について知らされないこと、方向性の欠如や過小評価を感じることは社員にとって最も大きなモチベーションの低下になるので、各チームが、他のチームの目指すところやその理由を大まかに把握しておくは必要です。

オープンな戦略会議での目標の共有は、こうした落とし穴を回避する大きな一歩となります。

また、ジャスティンは、会社の目標をチームの能力とリソースに合わせることの重要性も強調しています。

「私たちは常に【目標はこれ、そのために必要なことはこれ。そして、その数字を達成するために必要なことは、こうです。】というように、トップダウン方式で営業活動を行ってきました。今はもっとボトムアップアプローチで目標を設定し、【営業マンは一人当たりこれだけ数字を作れる、今年はこれだけ営業マンを増やせば、このくらいの売上になるだろう。】というように見ています」

また、戦略会議は、チームにとって達成可能な目標は何か、その目標を達成するためにはどうすればよいかを確立するための貴重な場でもあります。

ヒント7:チームの結束力を高めるための投資

チームの結束を高めるには、企業が時間と資金の両方の投資が必要です。

社員がリモートで仕事をしている場合、チームが実際に会える機会を設けるのはさらに重要です。ジャスティンによると、SaaS業界はストレスの多い環境を培う傾向があるため、一緒に楽しい活動をするのは、「離れていてストレスの多い状況にあるとき、誰と働いているのか、Zoom電話の向こう側に誰がいるのかを思い出すのにとても良い」のだそうです。

社員の結束力を高めるためには、MRRチャーンなどのビジネス指標を社員にオープンに公開することも重要です。そうすることで、目標が明確となり、進捗も確認しやすくなります。

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Tomotaka Endo

Tomo Endo is a dynamic professional with a rare blend of achievements in technology, community leadership, and sports. As the Co-Founder of Nihonium.io since August 2023 and Community Lead at Xenon Partners since September 2019, Tomo has been pivotal in driving innovation and fostering community engagement within the tech industry in Tokyo, Japan. His role in facilitating growth and providing actionable insights at Baremetrics, coupled with his contribution to MetricFire's technical monitoring community, underscores his proficiency in leveraging technology to nurture professional communities. Beyond his tech-centric endeavors, Tomo has excelled as a professional athlete in squash, achieving the no.1 ranking in Japan and a global ranking of 79th by August 2020.