FinOps とは

Tomotaka Endo 2022 5 18

近年、クラウド技術や企業がクラウドITアーキテクチャやクラウドベースのビジネスプロセスへの依存度を高めていることを受けて、財務管理という新たな学問分野が生まれています。

FinOps(Financial Operations)とは、最新のテクノロジーとメソッドを組み合わせて、企業の財務プロセスを適切かつ効率的に拡張することをサポートするものです。本記事では、FinOpsの基礎知識をいくつか取り上げ、FinOpsでどのように企業のクラウド使用と支出の最適化がなされるかを探っていきます。

FinOps とは?

この10年間で、多くの企業がクラウドベースのサービスを導入してきました。多くの利点がある一方で、クラウドコンピューティングへの移行に伴い、クラウドコンピューティングを監視していないと、クラウドプロバイダーが負担する費用がすぐに高騰してしまうという問題もあります。

FinOpsとは、企業のクラウド利用を最適化することを目的とした、財務管理のための運用モデルのことを指し、クラウドの利用状況の監視やコンピューティングプロセスの合理化、および最も費用対効果の高い方法でタスクの優先順位を決定する技術が含まれます。

FinOps とクラウドソリューションの拡張性

クラウドベースのアプローチは、かつては最先端のITビジネスにのみ許されるハイテクソリューションと見なされていましたが、最近では、より多くの企業が何らかのクラウドオプションを日々の業務で利用しています。

安全なオフサイトデータ保存の普及から、ビジネスコミュニケーションのデジタル化の進展まで、クラウドコンピューティングは現代のビジネスにおいてますますありふれた機能となっています。

クラウドの大きなメリットのひとつは、その拡張性です。ほとんどのクラウドプラットフォームでは、柔軟な支払いプランとサービス提供のリアルタイムでの調整ができるため、クラウドはあらゆる種類のビジネスにおいて、必要なときに必要なだけの拡張や縮小を可能にします。

Eコマースへの急増する需要への対応やコンタクトセンター縮小の軽減など、クラウドインフラの拡張性は多くの産業で大きなメリットとなっています。しかし、クラウドがリソースの利用効率を高めることができるからといって、必ずしもそうなるとは限りません。そこで登場するのが、FinOpsです。

FinOps 3つのステージ

クラウドコンピューティングの拡張性が確実に企業の業績を向上させるには、クラウドの利用状況を把握し、効率的に実行することが不可欠です。そうでなければ、コストは急速に上昇し、手に負えなくなる可能性があります。

コストを抑えるには、企業のクラウド利用をあらゆる側面から監視・管理する強固なFinOpsフレームワークの採用が必要です。そこで、FinOpsの3段階モデルを考えてみるといいでしょう。

FinOpsの3つのステージは、FinOps Foundationによって普及されたモデルである「情報提供(inform)」、「最適化(optimize)」、「運用(operate)」というのを見るかもしれませんが、筆者は専門用語をよりももっとシンプルに、「情報(Inform)」、「分析(Analyze)」、「実行(Act)」とします。

いずれのモデルにおいても、この3つは必ずしも最初から最後まで直線的、時系列的にいかなければいけないというわけではなく、同時進行や反復的に進むことも可能であることを頭に入れておいてください。

FinOps ステージ1. 情報

FinOpsプロセスの最初のステージでは、必要なデータを常に集めておく必要があります。その情報は、ビジネスのさまざまな部門ごとのクラウドの利用状況や支出に関してまとめられ、アクセスしやすいように整理されておかなければいけません。

このデータを集める最も簡単な方法は、企業内でクラウドコンピューティングプロセスに何らかの形で頼っている部門を全部調査するだけです。

一般的な調査では、例えば「最近6ヶ月間のクラウドへの支出は月いくらですか?」「どのクラウドサービスプロバイダーを利用していますか?」「複数のプロバイダーを利用している場合、それぞれのプロバイダーはどのサービスを提供していますか、またプロバイダー間の利用比率はどのくらいですか?」などを聞いてみてください。

FinOps プロバイダー間の利用比率

クラウドコンピューティングを補助的にしか活用していない分野では、クラウドのコスト計算は比較的簡単な作業ですが、企業によっては、FinOpsのこの段階が少し複雑になることもあります。

例えば、SaaS企業は複数のクラウドアーキテクチャを並行して展開し、特定のデータセットを格納したり、階層化された顧客向けに利用可能な機能を規制するために、複数のクラウドサービスプロバイダーに依存することがあります。この業界は複雑化する可能性があるため、クラウド利用に関する透明性の高いデータモデルを構築しているSaaS企業は、業績が良く、投資家からの評価も高い傾向にあります。

FinOps ステージ2. 分析

必要な使用量とコストのデータが集まったら、次のステージでは、支出を削減するために、どのように企業が最も効率的にクラウドリソースを割り当てられるかを計算します。

最終的にFinOpsにおける分析の目的は、利益を最大限に引き出すことであり、つまりは最小限のリソースと最小限のコストで最大のリターンを得るということです。繰り返しますが、SaaSビジネスの場合、利益を計算する際に前受収益も考慮しなければならないことが多いので、少し複雑になります。もし自身のビジネスがそうであれば、クラウド・サービスに費用をかけすぎないことがもっと重要になります。

FinOpsプログラムのこのステージで重要なのは、将来のクラウドリソース要件を予測することで、いわゆる「利用予測」です。FinOpsチームは、予測分析モデルを使用して、今後1年間に必要となるさまざまなクラウドリソースを見積もり、それに応じて予算を確保することができます。

予想された要件を知ることで、より安価なプリペイド式リソースや、クラウドプロバイダーからのVoIPのコールセンターのソリューションの利用もしやすくなります。

予測分析と同様に、データ分析の関連分野として、処方的分析という分野があります。処方的分析は、将来の使用状況を予測するというよりも、既知のデータに基づいて統計的に最適な行動を計算することを目的としています。

これはFinOpsでは、クラウドリソースの使用状況について分かっていることを利用して、あるクラウド利用の枠組みをどのようにすればより収益性が高くなるかを判断するという意味です。処方的分析を適用することで、あるクラウドタスクを継続する価値があるかどうか、あるいは使用するクラウドプロセスに調整を加えることで最適化できるかどうかがわかります。

FinOps分析プロセスが正しく導入されれば、リソースを使いすぎていないといつでも確信が持てることから、これは急速に規模を拡大している企業にとって、破綻することなく顧客の需要に応えられるかどうかに影響する、最も重要な要因のうちの1つであることがわかります。

FinOps 分析プロセス

FinOps ステージ3. 実行

FinOpsサイクルの第3ステージでは、情報・分析ステージで得られたインサイトを適用します。

実行は、FinOpsプログラムの見解を他のデータや分析ソースとともに考慮した全体的なビジネス戦略にちなんだものでなければいけません。例えば、従来のPBXシステム(「PBX電話システムとは?」参照)からクラウドベースの代替システムへのポート番号のコストベネフィット分析には、クラウド利用によって生成されたものだけでなく、複数のデータストリームが利用されます。

データ収集や分析から得られたインサイトをもとに実行することを最終段階と考えず、むしろ継続的に改善していくものと考えるべきでしょう。このように、FinOpsのベストプラクティスでは、追跡している指標の継続的な評価と、それらがビジネス目標やクラウドサービスの最新動向を反映していることの確認作業が含まれます。

FinOps ツール

テクノロジーに根差した学問分野であるため、クラウドの利用を最適化するための非常に便利なFinOpsツールがあることは、いわば当たり前のことですが、ここではコスト管理ソフトウェア、財務モデリングツール、EDIシステムの3つを見ていきましょう。

コスト管理ソフトウェア

コスト管理および最適化ツールは、未使用のインスタンスや余分なインスタンスサイズ設定など、不要な出費を強調することでコスト削減をサポートします。コスト管理ソフトウェアの例としては、GCP BillingやAWS Cost Explorerなどのプラットフォーム内のコスト最適化モジュールが挙げられますが、カスタムメイドのコスト最適化ソフトウェアを採用することもできます。

財務モデリングツール

専用のコスト管理ソフトウェアと同様に、FinOps ツールキットのもう一つの重要なコンポーネントは、Flightpath Finance のような強力な財務モデリングツールです。これは収益、費用、銀行残高を予測することができ、会社の予想される将来をもとに、最も情報に基づいたビジネス上の意思決定を行うのに使えます。

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EDI(電子データ交換)システム

FinOpsは、機械学習(ML)や人工知能(AI)を含む最新のデータ分析技術を使用することで知られていますが、FinOpsの範囲内には、それほど高度ではなくても同じように便利な技術を使うスペースもあります。

EDIは、Electronic Data Interchangeの略で、そのような技術のうちの一つです。EDIは、取引相手との間で標準化された電子フォーマットによる文書や取引の交換をスムーズにするものです。EDIをFinOps戦略に組み込むには、必ずクラウドに対応したEDIシステムを使用してください。

EDIプラットフォーム選びは、実はFinOpsの観点からも非常に重要な決断です。例えば、EDIシステムによっては、迅速なスケーリングに適しているものもあり、さらに、EDIで多くのトランザクションを処理する場合、システムがマルチスレッド(複数のトランザクションを処理する際に処理時間を短縮する機能)をサポートしているかどうかも検討しなければなりません。

FinOps のまとめ

FinOpsのフレームワークを取り入れることは、クラウドの支出を管理しなければならない企業にとっては、いいことづくめと言えます。クラウドの利用がすぐにでも拡大することが予想される場合は、早い段階で適切なプロセスと原則を導入することが特に重要です。

財務モデリングやビジネスコミュニケーション計画など、全体的なビジネス戦略にFinOpsを組み込むことで、クラウドのリソース利用を最適化し、クラウドベースのプロセス全体でクリーンで信頼性の高いデータパイプラインを確実に得られます。

それでは、FinOpsとは何か、そしてFinOpsがどのようにビジネスの財務プロセスのスケーラビリティを向上させるのかが分かったところで、あとは自社でFinOpsプログラムをデザインして実行するのみです。

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Tomotaka Endo

Tomo Endo is a dynamic professional with a rare blend of achievements in technology, community leadership, and sports. As the Co-Founder of Nihonium.io since August 2023 and Community Lead at Xenon Partners since September 2019, Tomo has been pivotal in driving innovation and fostering community engagement within the tech industry in Tokyo, Japan. His role in facilitating growth and providing actionable insights at Baremetrics, coupled with his contribution to MetricFire's technical monitoring community, underscores his proficiency in leveraging technology to nurture professional communities. Beyond his tech-centric endeavors, Tomo has excelled as a professional athlete in squash, achieving the no.1 ranking in Japan and a global ranking of 79th by August 2020.