SaaSの成長目標が達成できていない5つの理由 - Baremetrics Japan

Tomotaka Endo 2022 5 22

SaaS製品を提供する場合、顧客体験、製品開発、マーケティングの3つの分野を常に念頭に置いておかなくてはいけません。

どれかひとつでも怠れば、ビジネスの長期的な成功は危うくなります。

本記事では、SaaSビジネスが目標に到達できない最もありがちな理由5つと、ビジネスの成長を軌道に乗せるための提案について説明します。

SaaSメトリクスとは

SaaSメトリクスとは、SaaSビジネスの成長を測るための基礎となるものであり、効果的なマーケティング予算や製品開発計画、ポジティブな顧客体験を生み出す上で、重要な役割を担っています。

結局のところ、SaaS業界における成功の鍵は、長期的な成長を維持することにあります。現実的な目標を設定した計画を立て、その目標をコンスタントに達成するには、測定基準のモニタリングが一番です。

BAツール(ビジネスアナリティクスツール)で正確なデータを集めることは、自社が軌道に乗っているかどうかを判断し、必要に応じて軌道修正するために不可欠です。特に、新規コンバージョン数、MRR(月間経常収益)チャーン率などを継続的に見ていく必要があります。

では、目標に到達していないことがわかったら、どうすればいいのでしょうか。何が問題なのか診てみましょう。

SaaSの成長目標が達成できない5つの理由

1. 顧客が離れていく 

Database Marketing Instituteの創設者であるアーサー・ミドルトン・ヒューズ氏は、顧客が企業を離れる4つの理由を挙げています

  1. 顧客の死亡、または、購入終了
  2. 価格への不満
  3. 製品への不満
  4. 顧客としての扱われ方に不満

顧客が企業を離れる理由は、複雑な問題です。にもかかわらず、あなたが思いつくどんな理由も、この4つのカテゴリのいずれかに当てはまると思われるという、おもしろい点があります。

顧客維持率を高めて顧客チャーンを下げ、顧客の流出を止めたいのであれば、なぜ顧客が離れていくのかわかってないといけません。

よくある指標として、顧客チャーン率という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。この指標は、自社サービスのサブスクリプションをキャンセルした顧客のことを指し、その率は、月、四半期、年などの一定期間にわたって計算されます。顧客チャーン率は%で表され、ゼロに近ければ近いほど良いということになります。

顧客チャーンは、ある期間の有料プランに変換した後、キャンセルしたユーザーのみを指すことに注意してください。無料トライアルにサインアップし、有料期間に入る前に終了した見込み客( これらのユーザー「失敗コンバージョン」と呼ばれています。)は含まれません 。

チャーン率が低いということは、忠実な長期顧客がいるということです。既存顧客の維持は、新規顧客の獲得よりも低コストで効率的であるため、長期顧客の維持は、サブスクリプションサービスにとって最優先事項であるべきです。 

このため、SaaSビジネスを評価する際に、チャーン率の低さが投資家が注目する指標の1つとなるのです。幸いなことに、チャーン率を下げてそれを維持するのに定評のあるやり方があるんです。

顧客チャーンを減らす最初のステップは、解約を考えている理由を顧客から直接聞き出すことです。一番いいのは、メールやアプリ内のアンケートです。

回答率の高い解約アンケートの作り方をご紹介します。

アンケートでは、必ず

  1. キャンセルの主な理由を把握するための簡単なアンケートを同封すること
  2. 考え直してもらうために何かできることはないかを尋ねること

Baremetricsで作成したフォームの例です。

Source: The Ultimate Guide to Cancellation Insights

提供されたサービスが顧客の問題を解決していない

このグループのユーザーは、自分たちの問題の本質か、あなたのところのソリューションのどちらかを誤解して、サービスを申し込んでしまったのです。彼らは、遅くともトライアル期間を過ぎてはいけなかったのです。

解決策:もし、顧客があなたのサービスの内容を誤解している場合、解決策は2つあります。

  1. 製品教育を充実させる 

教育ツールとしては、ソフトウェアのデモ映像や、新規顧客と営業担当者によるデモミーティングなどがよく知られています。

また、多くのSaaS事業者は、訪問者や見込みユーザー向けにランディングページでポップアップチャットを行っています。これらは、社員とAIボットの両方が担当し、Q&A形式で効率よく訪問者と対話します。

  1. 販売認定プロセスの構築 

リードクオリフィケーションプロセスが効果を発揮すれば、理想的な顧客を特定でき、その顧客と関わることができます。

そしてそれは、マーケティング、セールス、プロダクトの各チームは、何をもって「自身の理想に当てはまる見込み客」と定義しているのかとなど、単純にクオリティの定義から始まります。

競合他社が提供するソリューションの方がいい

SaaSの世界は常に革新的であり、新しいソフトウェア・ソリューションが次々と登場しています。

もし、より顧客のニーズに合った、あるいはより低価格のソリューションが出てきたら、顧客が競合他社に乗り換える可能性は極めて高いでしょう。

競合他社に差をつけるには、競合他社が何をしているのか、具体的にどんなものを提供しているのか、料金はいくらなのか、自社のビジネスとはどう違うのか、などを常に把握することです。

また、長期購読割引などのインセンティブや、ブランドロイヤリティを高めるマーケティング戦略により、顧客の長期で引き止めておくことができます。

もちろん、革新的な製品開発やそれに続く優れた顧客サポートが、顧客維持の真の鍵ですが、以下にチャーンのよくある理由を挙げます。

「顧客サポートが十分でない」。たとえよくできたSaaSソリューションがあっても、カスタマーサクセスに投資していなければ、ビジネスを失う可能性があります。

ツールが使用された瞬間から一流のカスタマーサービスは始まるのです。

CRM(顧客関係管理)ツールを使用すれば、顧客とのやり取りを記録し、全体の満足度をモニターすることができます。これによって、メール、SNS、電話など、複数のプラットフォームで、さまざまなレベルのスタッフが関与するサポートを顧客に提供できるはずです。

また、自己解決型のヘルプソリューションの提供も重要です。WebサイトにFAQを豊富に掲載し、簡単にアクセスできるガイドやハウツーを用意することで、SaaSをより身近なものにすることができます。これにより、簡単な問題やよくある問題は顧客が自分で解決できるようになり、オペレーターは、より大きな問題やより価値の高い顧客に時間を割くことができるようになります。

あとは、顧客の問い合わせに答える際に、自身のカスタマーサービスの評価と、求めていたサポートが得られたか尋ねましょう。

集めた情報は、サービス全体の改善に使えます。顧客が離れていく理由が分かれば、具体的な問題点を突き止め、カスタマーエクスペリエンスの向上のためにできることはすべて行うことができます。ほんの少しの変更で、チャーン率を劇的に改善することができるのです。

2. 新規顧客を獲得できていない

競争の激しい市場の片隅で事業を展開していると、新規顧客の獲得は困難を極めます。ここでは、成長が停滞している場合の、新規顧客獲得のヒントをご紹介します。

無料トライアルの提供

顧客基盤の拡大の実績がある方法はいくつもありますが、幅広い見込み客に自社のソリューションを無料で試してもらうことはそのうちの一つです。これは、追加的なランニングコストはほとんどかかりませんし、出費を控えた多くの顧客を引き付けることができる可能性を秘めています。

多くのSaaS企業では、7日間から1ヶ月間のソフトウェアのお試し期間を提供しています。

前述したように、顧客がサービスを本当に理解した上で契約することが重要です。ということは、あなたのソリューションが彼らの特定のニーズにマッチしない場合、彼らはあなたのリソースを活用できず、結局は解約となるでしょう。

ユーザーがトライアルによって製品について色々学べると、このようなチャーンの減少に繋がります。また、トライアルで信頼を築くことができると、トライアルの提供が、顧客が他のサービスではなくあなたのサービスを選ぶ決め手となることもあります。

サブスクリプションのトライアルには、例えば、「このプランは永久無料ですけど使える機能は制限されます。でも有料プランにアップグレードしたら、追加機能を使えるようになりますよ」といったような、さまざまな形態があります。

この段階的な価格モデルの一例としてSpotifyを挙げてみましょう。ベーシックプランは無料で、広告のカット、オフラインダウンロード、無制限の曲スキップなどの追加機能はプレミアムプランへのアップグレードが必要です。これは、ユーザーがすぐにサービスの良さを実感できる一方で、プレミアムプランにすればもっと楽しめるということを常に印象づける効果があります。

トライアルのもう一つの例は、ソフトウェアへのフルアクセスが提供されますが、そこには一人しかアクセスできないように制限されています。これは、ほとんどのビジネスが複数のユーザーによるアクセスが必要なことを知っている上で、そこを突いています。

トライアルユーザーに有料プランへのサインアップを促すには、期間限定キャンペーンやプロモコードなどの特別企画が、購入の決断を後押しします。また、無料トライアルの提供を始めたら、トライアルのコンバージョン率の追跡をお勧めします。

リードジェネレーションを増やしたい

新規顧客の獲得には、顧客になりそうなリード(見込み客)を作ることへのリソースの投入が重要です。

リードジェネレーションには様々な方法がありますが、中にはより多くのリソースを必要とするものもあります。自身のICPに直接送られる、絶え間ない努力や的を絞ったマーケティング戦略に勝るものはありませんが、リードジェネレーション・クイズなどの自動化ツールによって、このような足で稼ぐこともできます。

それでもまだ行き詰まっている場合は、別のマーケティング戦略を試してみるのもよいでしょう。

3. マーケティング予算の配分を間違えている

自身のSaaSのマーケティングに多くの費用をかけている割に、十分なリターンを得られていないのではありませんか?

多くのSaaS企業が犯しているマーケティングの間違いがいくつかありますが、ここでは最もよくある事例を挙げます。

顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランスが悪い

新規顧客を獲得するためのコストはCAC(顧客獲得コスト)と呼ばれ、成長の各段階を通じてモニタリングすべき重要な指標です。

獲得に過剰な費用をかけると、その分利益率が削られることになり、特にチャーン率が高ければ、サービスはすぐに財政的に持続不可能になります。

CACは常に顧客のLTV(平均生涯価値)に比例していなければいけません。SaaSビジネスの場合、理想的な比率は3:1です。つまり、顧客獲得に100ドルを費やした場合、最低でも300ドルのリターンが期待されなければいけないのです。

データ変換ソフトウェアで、CACの削減と顧客LTVの向上に関する戦略を考案するのに、顧客に関連する特性を特定できます。

マーケティング資金の効果的な配分ができていない

SaaSビジネスのマーケティング・リソースが少なければ少ないほど、幅広い見込み客に広告を出す可能性が高くなります。しかし、顧客は高度にカスタマイズされたマーケティング活動を期待するようになったため、この戦略はほとんど効果がないことが証明されています。

実際、リソースが少なければ少ないほど、よりターゲットを絞ったアウトリーチが必要です。以下は、マーケティング予算の使いみちを挙げています

  • 顧客データベースへのアクセスを可能にする予測ツールによるデータ収集
  • 製品に適したユーザーをターゲットにするビジネス分析ソフトウェアでの顧客セグメント
  • A/Bテストされたコピーで高度に最適化されたアウトリーチ
  • ICPの反応を把握するための過去のマーケティングキャンペーンのデータ分析

その他のマーケティングのアイデアとして、「マイクロSaaSの創業者として広告キャンペーンを成功させるための6つのヒント」をご覧ください。

4. 収益が低すぎる

継続的な収益がなければ、SaaS企業は事実上暗礁に乗り上げます。スタッフの雇用や製品開発への投資、市場の安定性の維持は、すべて安定した収入源の上に成り立つのです。

SaaS企業の特徴は、製品が物理的ではなく、サービスベースであることです。ということは、SaaS企業は成長すればするほど、サブスクリプションを追加するたびに単価が下がります。つまり、顧客ベースの規模が大きくなればなるほど、利益率は指数関数的に上がるはずなのです。

持続的な成長を実現したいのであれば、収益は毎月、前月よりも増加しておかなければいけません。収益の伸びを把握するのにいくつかの指標があります。

サブスクリプション収入の指標としては、MRRARRがよく使われます。

拡張MRRとは、加入者の収入が月ごとに比較的にどれだけ上昇したかを示すものです。

MRRの改善

MRRを上げるのに即効性のある方法はありませんが、長期的な収益上昇のために、時間をかけて実行できる戦略はあります。

考慮すべき要素のひとつは、製品に対して十分な価格が設定されているかどうかということです。価格分析によって価格の伸縮性(顧客を失う前にどれだけ価格を上げられるか)をテストすることで、価格を上げることが可能かどうかについての見解が得られます。

値上げも大幅値上げのように見える必要はありません。ゆるい値上げの手法としては、機能を追加したプレミアムプランの追加や、既存顧客へのアップセルなどがあります。

ベースラインARRの保証に向けた取り組み

ARRの基準を固定したい場合(例えば、今年は製品開発に多額の投資をしたいので、研究開発費をカバーできる額を確保しなければいけないとします)、ユーザーに月額プランではなく、年間サブスクリプションプランを購入するようにインセンティブを与えることもできます。

最も簡単なやり方は、年間契約による割引の提供です。

5.  顧客が体験を共有していない

多くの人は、SaaSビジネス自体の広告コピーよりも他の顧客の声を信用する可能性が高く、継続的な金銭的コミットをする前に実際のレビューを聞きたいと思うことから、口コミは、新規顧客を獲得するための強力なマーケティングツールになります。

では、ユーザーが自社のサービスを他の人に薦めるかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。

そのためのツールが、NPS(ネットプロモータースコア)です。基本的に、NPSは簡単なメール調査を通じて顧客満足度をモニターします。アンケートの形式は、例えば「当社のサービスを1~5つ星で評価してください」といったような評価や、特定の製品に関するフィードバックを求める一連の質問とすることができます。

NPS調査で、以下の2つの問題を明らかにできます。

  1. ユーザーが製品に満足していない。
  2. ユーザーは満足しているが、製品をオススメしていない。

もしユーザーがサービス自体に問題を抱えているのであれば、できるだけ早い製品の修正が必要です。フォローアップのアンケートを送り、ユーザーが抱えている問題の種類を特定しましょう。カスタマーサクセスチームに、当該ユーザーと連絡を取り、解約される前に対応してもらうように依頼すると更にいいでしょう。

一方、ユーザーの満足度が高いにもかかわらず、他の人に勧めていない場合は、どのようにすれば周りにオススメするプロセスを促せるかを考えてみてください。さらに、ランディングページに満足したユーザーの声やケーススタディを掲載することも検討してみてください。

NPSスコアを上げるその他の方法としては、カスタマーサービス体験の改善、新機能の追加、より使いやすいダッシュボードやウェブサイトのナビゲーションの作成などが挙げられます。

SaaSのビジネス指標追跡の重要性

以上が、多くのSaaSビジネスが成長目標を達成できない5つのよくある理由です。つまり、指標の分析をしない限り、成長率を上げようとすることは、そもそも勘でビジネスをするようなものだということです。

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Tomotaka Endo

Tomo Endo is a dynamic professional with a rare blend of achievements in technology, community leadership, and sports. As the Co-Founder of Nihonium.io since August 2023 and Community Lead at Xenon Partners since September 2019, Tomo has been pivotal in driving innovation and fostering community engagement within the tech industry in Tokyo, Japan. His role in facilitating growth and providing actionable insights at Baremetrics, coupled with his contribution to MetricFire's technical monitoring community, underscores his proficiency in leveraging technology to nurture professional communities. Beyond his tech-centric endeavors, Tomo has excelled as a professional athlete in squash, achieving the no.1 ranking in Japan and a global ranking of 79th by August 2020.