SaaSの値上げ

Tomotaka Endo 2022 5 31

大部分のSaaSビジネスにとって、顧客獲得は成長の中で最も困難なステージの一つですが、顧客獲得率を高める最も簡単な方法は、大体フリーミアムモデルの提供か、製品の低価格設定です。ただ、ビジネスの継続のためにはSaaSの 値上げ を余儀なくされる場合があり、これは収益を上げるだけでなく、業界における競争力の向上にもつながります。

SaaSのビジネスモデルのユニークな性質を理解する

SaaSのビジネスモデルが魅力的である理由の1つに、顧客がソフトウェアを1回限りの料金で購入しないことによる定期的な収益の発生があります。顧客は1回の購入で終わるのではなく、インターネット上で提供されるサービスに対して、月額または年額で料金を支払います。

クラウドコンピューティングによってすべてがオンラインで提供されるため、通常、ランニングコストは最低限に抑えられます。このため、中小規模のスタートアップ企業では、サービスを限定的に無料で提供して顧客を引き付けることができ、クラウドコンピューティングを利用することで、様々な購買力を持つ顧客に対応した段階的な価格体系の構築ができます。

ただ、値上げのための計画と戦略がなければ、この顧客を引きつける戦略は、最終的にSaaSビジネスの座礁につながることになります。まともな利益が出ないだけでなく、

などを行う資金繰りが苦しくなります。

つまり、あなたのビジネス運営がどの段階であっても、商品の値上げは避けて通れないのです。

値上げ をすべき3つの理由

多くのSaaSスタートアップは、顧客を失うことを恐れて値上げすることに怖気づいてますが、値上げをしなければ、以下のように、顧客を失うことよりももっと大きな問題が出てきます:

1. 売上上昇

これは明確かもしれませんが、SaaSの値上げの重要な理由にもなっています。収益性は、あらゆるビジネス、特にSaaSスタートアップの存続に不可欠なものです。

2. 製品価値の向上

価格設定がずっと変わらないでいると、時間の経過とともに、経済的にも、ターゲットユーザーの目にも、あなたの製品の価値は薄れていくことになります。それにより、一度でもあなたの製品が「安い」という評判を得ると、顧客は常にあなたの製品を競合製品よりも価値が低いと認識するようになります。

3. 製品に見合う顧客の確実な獲得

SaaS製品の価格が低いと、当初予定していたターゲット層とは全く異なる層を獲得してしまう可能性があります。製品の価値の上昇に見合った価格設定をすることで、たとえ一部の顧客を失うことになっても、製品に見合った顧客が常に付くようになります。

値上げ のタイミング

どのビジネスもそうであるように、値上げをしなければならない時期がやってきますが、SaaSビジネスの場合、値上げのタイミングを見極めるのが難しい場合があります。ここでは、値上げのタイミングのきっかけになる兆候をいくつかご紹介します。

顧客があなたの製品を「安い」と表現する時

価格設定を上方修正する必要があることを示す最初の兆候のひとつは、顧客があなたの製品を表現するのに「安い」という言葉やそれに類似する言葉を使う時です。顧客との会話の中で使われるにせよ、あなたの製品と他社製品との比較レビューの中で使われるにせよ、「安い」というのが彼らがみなすその製品の価値になります。

顧客が価格設定に反発していない時

営業担当者に価格交渉の権限があるにもかかわらず、見込み客が価格交渉をしてこないということは、製品の価格が低く設定されている証拠です。このような場合は、値上げが必要です。

新機能が最近追加された時

新機能、特にユーザーにとって価値のある新機能は、値上げのための非常に良い口実になります。顧客からのフィードバックで新機能の価値を判断し、それに応じて価格設定を見直しましょう。

需要に圧倒されている時

あなたの製品に対する需要が圧倒的に多いということは、あなたの製品がヒットしている証拠であり、その時に必要とされているソリューションであることの証かもしれません。 例えばビデオ会議プラットフォームのZoomは、2020年にこのような大規模な急成長を経験し、それが現在も続いています。これは、消費者がその製品にもっとお金を落としてもいいと思っている証拠でもあります。

値上げ を円満にする簡単なコツ5つ

SaaSの値上げの理由と時期がわかったところで、顧客を動揺させることなく値上げを行う方法についてご説明します。

1. 新規顧客向けの 値上げ

SaaS製品の値上げで最も安全な方法の1つは、ロックインレートという方法を用いた、既存の顧客を満足させながら、製品を契約したすべての新規顧客に対しての値上げの実施という、新規顧客のみを対象にした値上げです。その際既存ユーザーには、新規顧客向けの価格が上がるだけで、既存顧客向けの価格は変わらないことを、必ず伝えましょう。

これは、既存の顧客を価格パッケージに組み込むことであり、基本的には既存の顧客を期間限定または永久に同じ価格レベルで維持するということです。

この方法が多くのSaaSブランドで支持されている理由の1つは、顧客離れを減らすことができることです。この方法で、ブランドの価値を高めるために不可欠なMRR(月間経常収益)などのSaaSの成功指標にプラスの影響ももたらされます。

唯一の注意点は、ユーザー一人当たりのARPU(平均収入)のようなメトリクスにマイナスの影響を与える可能性があることです。でもBaremetrics を使えば、このような重要な SaaS のメトリクスを簡単に把握することができまるので心配いりません。

値上げ で使えるBaremetrics

では、既存ユーザーを動揺させることなく値上げをしたい場合はどうすればいいのでしょうか?

以下の手順で、その方法を説明します

2. 顧客の調査

既存顧客の値上げの前には、顧客の調査が必要です。

これは、ICP(理想的な顧客像)を再定義し、より洗練されたバイヤーペルソナの構築ということです。値上げを計画する際に考慮すべき、顧客調査のその他の意味合いは以下の通りです。

  • 価値分析:あなたの製品が顧客に提供する価値について考えてみましょう。その機能には、顧客が喜んでより多くを支払いたいと思うような価値が備わってますか?
  • 顧客の感性:今までに、あなたは顧客に関する十分なデータを持っており、彼らが変化、特に価格変更に対してどの程度敏感であるかを知っているはずです。これによって、大多数の顧客を動揺させることなく、どの程度の値上げが可能かがわかります。
  • ユニットエコノミクスの考慮:ARPULTV(顧客生涯価値)のような単位経済性は、SaaSビジネスの成長に不可欠です。チャーン率に影響を与えることなく、これらを向上させることができる適切な価格設定ポイントを見つけましょう。

新価格が現在の顧客にどのような影響を与えるかを把握するには、インパクト分析が必要です。そうすることで、変更に備えることができ、また、価格変更によって最も影響を受けるであろう顧客にどのようにアプローチするかという戦略を練ることができます。

3. 競合他社の価格設定チェック

競合他社分析は、自社ブランドを戦略的に位置づけるために不可欠な要素であり、顧客のあなたの製品に対する希望価格を把握するのにも最適な方法です。そして何より、価格設定を顧客の期待値の範囲内に抑えられます。

競合他社の価格設定を自社の値上げに利用する際の最善の方法の一つとして、ヴァン・ウェステンドープ・モデルの活用があります。このモデルでは、顧客に以下のような簡単な質問を4つします:

  1. 本品がどの程度の価格であれば適正であり、最もコストパフォーマンスに優れていると思いますか?
  2. どの価格帯で製品が高価になってきていると感じ、それでもまだお金を落とす価値があると思いますか?
  3. どの価格帯で品質を疑うほど安価に感じますか?
  4. どの程度の価格であれば、使い続けることができるとお考えですか?

これらの質問に対する答えで理想とする製品価値が決められ、最終的には、SaaS製品の最適な価格帯が導き出されるのです。

4. 価格帯の再編成

顧客を動揺させることなくSaaSの価格を上げるもう一つの方法は、価格帯の再編成です。

この方法であれば、顧客は値上げは免れますが、使える機能は今までより少なくなる可能性があります。より高度な機能を必要とする人は、アップグレードを余儀なくされますが、この変更は、機能の価値が自ずと明らかになるため、それほど抵抗はないでしょう。

同じように、新機能を利用して、価格体系に新しい階層を導入することも可能です。

価格帯再編成の最大のメリットは、顧客に選択肢が与えられることです。それにより、顧客は強引に製品価格を上げさせられたと感じることはなく、顧客は自分がコントロールできると思っているので、値上げの痛みを感じることはないでしょう。

5. 価格よりも製品の価値

SaaSの価格を正しく設定するコツは、製品の真の価値を伝えることであり、それは値上げの場合も同じです。

 値上げよりも、あなたの製品が顧客に与える価値を売ることに重点を置きましょう。そうすることで、顧客は値上げの理由をより良く理解することができ、その結果、大抵は喜んで製品を使い続け、新しい料金を喜んで支払ってくれるでしょう。

SaaSの 値上げ - 見かけほど難しくはない

SaaS製品の値上げは、必ずしも難しいわけではありません。

うまくいけば収益が上がり、顧客も満足します。もちろん、一部の顧客を失うことになるかもしれませんが、顧客数が減ることで、サービス依頼が減り、顧客の質が向上し、顧客サービスが改善されることもあるので、必ずしも悪いことではありません。

Baremetricsなどのツールを利用して計画的な値上げ戦略を実行すれば、値上げはあなたと顧客にとってWin-Winの関係となり得ます。

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Tomotaka Endo

Tomo Endo is a dynamic professional with a rare blend of achievements in technology, community leadership, and sports. As the Co-Founder of Nihonium.io since August 2023 and Community Lead at Xenon Partners since September 2019, Tomo has been pivotal in driving innovation and fostering community engagement within the tech industry in Tokyo, Japan. His role in facilitating growth and providing actionable insights at Baremetrics, coupled with his contribution to MetricFire's technical monitoring community, underscores his proficiency in leveraging technology to nurture professional communities. Beyond his tech-centric endeavors, Tomo has excelled as a professional athlete in squash, achieving the no.1 ranking in Japan and a global ranking of 79th by August 2020.